5 映画『ヴァイブレータ』-もとに帰る旅

映画『ヴァイブレータ』では、コンビニで出会った男と女が新潟まで旅をする。
(『ヴァイブレータ』監督:廣木隆一 出演:寺島しのぶ 大森南朋ほか 2003 )。
男はフリーのトラック運転手。
女はルポライターで、何かうっくつをかかえていて、眠れず、過食して吐くことを繰り返している。(それに「食べ吐き」という言葉があるのを、この映画を見て初めて知った。)
ときおり頭のなかで「声」がきこえるのをうっとうしく思っている。
コンビニで女がワインをどれにしようと選んでいるとき、男が入ってきて、女は男の長靴にひかれた。
触れたいと思う。
女が男のトラックに乗り、セックスする。
男はこれから埼玉県の川口で荷を積み、新潟まで運ぶところ。
女も同乗する。

『ヴァイブレータ』ロケ地
途中で寄るのが埼玉県北部の国道17号沿いにある奇妙な鉄骨構造物。
骨組だけの建物で、小ぶりな事務所ふう建物が付属している。
ここで女がこの先も道連れにしてほしいという。
フリーの運転手は高速道路料金が自己負担になるので、高速にははいらずに一般道を埼玉から新潟まで行く。
埼玉から新潟への道の途中、映画の展開の1局面になるところで、こんな奇妙な建築物が選ばれた。
この鉄骨構造物は何かよくわからない。
なにかの建築途中で鉄骨だけ組んだところで完成を諦められたのか。
逆になにかにつかわれていたのが、表層を解体され骨組だけ残っているのか。

実際にもそうだが、映画のなかでも、ここがどういう場所なのか判断できる手がかりがない。あいまいで浮遊したような印象が男と女の心的状態とよくあっている。 映画制作者がよくこんな場所を見つけたものと思う。
僕はこのあたりをときどき通りかかることがある。
建物はもうかなり前からあり、パフォーマンス集団がここで発表会を開いたのを見に来たこともある。

国道17号は、ここから下り方面に数分行くと、県道128号を高架で越える。 高架わきのラブホテルの屋上に自由の女神像があって、国道から目立って見える。映画ではトラックがそこを走っていくシーンもあった。

かなりの距離を走るうちに男と女は気持ちが絡んでいく。
男が女に、ずっと乗っていてもいいという。
でも、新潟で荷をおろしたあと、トラックはもとのコンビニに戻り、女はそこで降りる。
女の頭のなかの声はきこえなくなっている。
映画ではずっと女の内心の思いが字幕ででるのだが、最後はこんなふう。  

 声たちは消えていた。
 いつかまた聞こえるのだろう。
 でも、今は消えている。


女が、異質な男のトラックに乗り、これまで暮らしてきたところから離れて移動していく。
なにかしら傷んでいた状態から回復する。
それは遠くへ行く旅の効果だろうが、帰るともとに戻りそう。
また回復するためには、『男はつらいよ』の寅次郎のように、あるいは『ムーミン』にでてくる放浪のひとスナフキンのように、繰り返し出ていかなくてはならない。

クレーンゲーム 国道17号 行田市
国道17号をわずかに下った反対側にオートレストラン「鉄剣タロー」がある。
わずかに上ると同じ側に多種のクレーンゲームがそろった店がある。(左の写真)
数年前にギネスブックに記録されていたが、今はそういっていないのは他店に数をこされたのかもしれない。
写真右の道が国道17号。歩道橋の少し先、左に鉄骨構造物。そのまた少し先に鉄剣タローがある。
国道沿い300mほどの区間に3つのユニークな物件が集中している。 (2枚の写真は別な日に撮ったもので、雲の様子が違う。)

* 鉄骨構造物はかなりの年月(ただ通りかかる者からすると)定かな使われ方をしていなかったのだが、最近「埼玉カートパーク」になっていた。 ゴーカートのコースで、ロケやイベントのレンタルスペースとしての貸出もしている。 国道17号のほぼ向かい側にある、閉店したオートレストラン「鉄剣タロー」もレンタルスペースに含んでいた。→[4 映画『TOKYO TRIBE』-オートレストラン・鉄剣タローの閉店]