横川-つながる3つの川(3)

いわき市の北部で3つの川がつながっている。
仁井田川が西から東に流れて、太平洋に入る。
3キロほど南に夏井川があって、やはり西から東へ流れて、太平洋に入っている。
山から海へ、高いところから低いところへ、当然な流れだ。
ところがこの2つの川の河口付近を結んで南北に(=海岸線に並行して)流れる横川という川がある。

横川 仁井田川河口近く
横川の北端、仁井田川との接点。
写真では、右から左へ仁井田川が流れ、横川が向こうに流れている。
左はすぐに仁井田川の河口になる。

 

横川 夏井川河口近く
横川の南端、夏井川との接点。
夏井川が左から右に流れ、左の橋の向こうから横川が流れてくる。 右の橋は、夏井川河口に架かる磐城舞子橋で、橋をくぐった先がすぐ太平洋。
福島県の河川担当課が夏井川の治水対策について説明した文書に「仁井田川は、いわき市北部を流下し、太平洋への河口部を有しながら、通常、横川と呼ばれる区間を経て、夏井川河口付近で合流する法指定区間25.5kmの河川である。」とある。 それで「横川は仁井田川から夏井川に流れる」ことを基準にして、上の文でも「向こうから」とか一応いっている。


(高い)山→(低い)海ではなく、海岸線に並行した低い土地を流れる川がなぜあるのか?
海岸線に並行する川としては、仙台湾沿いの貞山(ていざん)運河とか、信濃川と阿賀野川を結ぶ通船川がある。 それぞれ米の輸送、洪水対策という目的があって、人工的につくられたもの。
横川はどうか、現地に行く前にネットなどで調べたところではどうもわからない。 もし人工のものなら川ばたに由来書があるとか、指導的役割を果たした人がいれば顕彰碑でもあるだろうと思ったのだが、そういうものは見あたらなかった。
図書館で郷土資料を探してみたが、確たる手がかりがない。
幾人かのひとにきいてみたが「横川はもとからそういうふうにあるもの」であって、起源についてなど意識にないようだった。
上記の福島県の河川担当課による文章だと、「仁井田川が河口付近で横川と名をかえて夏井川に合流する」ようなのだが、起源についてとくに明確ではない。

横川 下仁井田川排水機場
これは横川の途中の風景で、向こうが仁井田川に、手前方向が夏井川につながる。
両端の2つの川の閉塞の状況によって、横川は南流したり北流したり、流れの向きをかえることがある。
僕が行った2019年11月は、仁井田川が閉塞し、夏井川が一部抜けているときだった。でも川ばたから眺めたところでは、水はどちらにも流れているように見えなかった。
白い建物の入口には「湛水防除事業 下仁井田川排水機場」とある。


3キロちょっとの横川に3箇所の排水機場があり、このあたりの低い土地に多量の雨が降ったとき横川に流すための施設。
ところが両端の仁井田川、夏井川とも、砂がたまって閉塞しがちで、横川に排水したところで洪水を有効に防げるわけではない。
地方紙や郷土誌に夏井川の閉塞や洪水の記述がしばしばあり、このあたりに暮らす人の悩みはそうした記録でたどれるだけでも100年ほども続いている。
そんな記録にも、やはり横川の起源はふれられていないのだが、そんなふうだから洪水対策でつくられた人工の川ではないようだ。
また米を積み出し港に運ぶような産業的必要もなさそうで、その点からしても川は人工ではなさそう。
推測だが、海岸に砂が堆積しやすいところだから、砂州が陸地とつながり、あいだにあった海が川の形態になったろうか。

横川 夏井川河口近く
夏井川の左岸からの河口。
長い橋は磐城舞子橋。
橋の左はしあたりの手前で、横川が合流してきている。
橋の下、向こうに、河口が日射しを受けて輝いていて、砂州が一部欠けているのがかろうじて見える。


横川に実際に行ってみると、人工とは思えなくなってきた。 仙台の貞山運河とか、新潟の通船川にひきずられて考えていすぎたが、どうも歴史より地質の領域のようかと思い直し、帰ってから調べる方向をかえたら、すぐに回答が見つかった。

『福島県 地学のガイド』(福島県地学のガイド編集委員会編 コロナ社 1984)という本に、要約すると次のような説明があった。
・陸地からわずかばかり離れた海に南北に細長く砂が積もって堤のような地形ができた=砂州
・砂州と陸地の間では、潮が満ちると海水が入り、ひき潮のときは陸地から淡水が入る=潟湖(せきこ)
・潟湖に仁井田川から水と一緒に砂や泥が運び込まれ、堆積していく
・砂や泥の堆積で浅くなり、岸のほうから陸化していき、陸化しないで残った潟湖が横川

遅ればせながらだが、実際に行ったあとの推測でほぼあたっていたようだ。
僕も自然のものという可能性をいくらか考えてはいたのだが、成因はどんなものであるにしろ、海岸線を並行して流れる川というのは、かなり特異なもので、どこかに何かふれてることがあってよさそうなもの。本でもネットでも現地でおききしてもなかなかなくて、(僕の目が届いたかぎりでは)地学の専門領域の本にだけあった。
洪水対策で苦慮しているくらいで観光資源にはならないにしても、地元でもっと知られていていいのではと思った。
* →[仁井田川-つながる3つの川(1)] 
  →[夏井川-つながる3つの川(2)]

(2019.11)